
| 社名 | 株式会社湯川酒造店 |
| 郵便番号 | 〒399-6201 |
| 住所 | 長野県木曽郡木祖村薮原1003-1 |
| 電話番号 | 0264-36-2711 |
| MAP |
【湯川酒造店訪問記:2025年8月5日(火)午後】
久しぶりに長野県木曽郡木祖村にある「十六代九郎右衛門」の醸造元、湯川酒造店を訪ねた。
名古屋からJR中央線の「特急しなの」に乗って木曽福島駅へ向かったが、この日は尾頭橋駅付近で車が橋桁に衝突する事故が起き、到着が15分遅れた。さらに、乗り換え予定の普通電車も25分遅れで、木曽福島駅で次の電車を55分ほど待つことに。
幸い、駅前にコンビニのような店があったので、おにぎり2個で空腹をしのぎ、ホットコーヒーでホッと一息つけたのがうれしかった。ついでにお土産も買えたので、まあ良しとしよう。
結局、1時間後の「特急しなの」が先に着いて「??」と思ったが、やっと普通電車に乗り、3駅先の「藪原(やぶはら)」駅に到着。そこでは、蔵元杜氏の湯川慎一さんが車で迎えに来てくれた。
湯川慎一杜氏は南部杜氏組合に所属する熟練の杜氏で、2023年にはロンドンの日本酒コンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」の日本酒部門で最高位「チャンピオンサケ」を獲得した実力者。多くの蔵元から尊敬される名杜氏であり、蔵元でもある。
車で3分ほどで、旧中山道の藪原宿にある蔵元に到着。木祖村藪原は標高900mを超える寒冷地で、軽井沢と同程度の高さ。旧中山道でも一番標高が高く、裏山には「藪原スキー場」もある。「日本で一番、星に近い蔵元」を標榜するこの地は、温暖化で昔より雪は減ったというが、気温が低く、一度降ると根雪になってしまうのが大変だという。
周辺には、宿場町らしい木造建築がいくつか残り、風情を感じさせる。特に近隣の奈良井宿や馬籠宿は、美しい町並みが保存された地区として知られている。
リニューアルされた蔵
蔵の建物は昨年大きくリニューアルされた。旧中山道を鳥居峠を越え奈良井宿まで約15kmをトレッキングする外国人が増えているため、木曽の伝統素材を使った内装の酒蔵バーを開設し、試飲やお酒の購入が楽しめる。ここでしか買えないオール木曽産のお酒もあり、必見の場所だ。
奥には座敷があり、入口は昔、この地域の領主など高貴な人専用の入口だったという。木曽杉の2枚の大板で作られたテーブルが美しいこの部屋には、大型モニターで蔵の説明動画が流される。有料だが、不定期で開催される旅行会社主催のツアーでは、この座敷で蔵元から直接話を聞けるという。
蔵の奥座敷で、湯川慎一杜氏に話を聞いた。
「ここ数年、蔵の未来について考え抜き、進むべき方向が見えてきました。それは、よりナチュラルで環境に優しい酒造りです。
今の日本酒造りは醸造や貯蔵で電気を多く使いすぎていると感じます。この寒冷地を生かし、冬は自然の低温で酒造りを行いますが、働き方改革の影響で、昔のように寒冷期に集中して仕込むのは難しく、秋や春にも仕込みが必要になっています。 『生酛仕込み』は寒冷期に適した方法ですが、春に仕込む生酛は冬のものとは異なる味わいになります。冷蔵庫を使えば解決しますが、それも避けたい。
そこで、春先に仕込んだ『金紋錦』の酒には五号酵母を使いました。この酵母は六号や七号酵母以降の今の日本酒酵母とは系譜が異なり、西日本発祥で、15度以上の高温発酵に適しています。アルコール度数が高まると自然に発酵が止まる性質があり、ビールやワインの酵母に近い特徴です。 また、酵母無添加の仕込みで蔵付き酵母を採取しました、それは九号系酵母がほとんどでしたが一部に野生酵母由来のものの採取出来ました。今後はこれらも活用する予定です。
さらに、暖かい時期向けの『菩提酛仕込み』で試験醸造し、良い結果が出ています。この方法は元々夏の仕込み向けに開発された技術で、10度以上の春や秋に適しています。
新酒の『純米吟醸55 ひとごこち』と『スノーウーマン』は年末に間に合うよう『速醸』で仕込みますが、それ以外は生きた乳酸菌を使った『生酛』『菩提酛』『山廃』の仕込みを基本にします。
ここは高標高ゆえに低い温度で蒸し米が仕上がり、結果として重い酒になりがちですが、乳酸菌がそれを補い、軽やかな酒に仕上げてくれます。この数年で酒の軽やかさは大きく進化しました。今後は 冬に生酛と山廃仕込を従来の日本酒酵母で、春に菩提酛仕込を五号酵母または蔵付き酵母で仕込む予定です。
山廃は実はとても難しいんです。緻密に造れて雑菌が入りにくい生酛に比べ、山廃仕込みは水分量が多く、荒々しい櫂入れも必要です。そのため『隙』が多く、野生の菌が入りやすい。でも、その不安定さがもたらす味の厚みや力強い酸は、『雄町』にすごく合うと思っています。また、13度仕込みの美山錦はきれいに仕上がりすぎる傾向があるので、山廃でその味わいを補完するように使っています。
山廃のお酒は燗上がりが素晴らしいので、茶色ラベルの『山廃仕込み 美山錦』は特に燗酒用に造っています。」
驚きの井戸水を使った環境に優しい冷却貯蔵庫
次に、醸造棟へ移動。まず目についたのは、生酛造りの「酛摺り」の工程に使用する木曽杉の木桶が並ぶ光景だ。それは殺菌作用のある柿渋を塗り立てで赤茶色に輝いていた。
さらに蔵の奥へ進むと、湯川杜氏が「これを見てほしい」と、井戸水を使った冷却貯蔵庫を案内してくれた。
「発酵タンクを冷やすのに井戸水をチューブで巡らせるのは一般的ですが、それを貯蔵庫に応用しました。井戸水を流したチューブを部屋中に巡らせ、冷却しています。建設前は20度をキープできればと思っていましたが、この猛暑でも16度以下を維持できています。電気代がほぼかからず、環境に優しいし、建設費は高いですがランニングコストはほぼゼロです。」
寒冷地で井戸水が豊富だからこそ可能なこの設備は、今のところ他に類を見ない。「ナチュラルで地球に優しい酒造り」という蔵元の主張が、酒造りだけでなく貯蔵にまで一貫していることに感銘を受けた。
次に、仕込み蔵へ。蔵内の温度は20度ちょっと。衛生面を考慮し、木造の土蔵の梁には柿渋が塗られている。寒冷地ならではの土蔵造りの中は、やはりひんやりとしている。そこで話題になったのは、最近の酒造りの課題だ。
「醸造後、すぐに澱引きして瓶詰めすることで、より瑞々しいお酒が味わえるのは良いのですが、酸素に触れず急速に瓶詰めされることで、未成熟な酒が市場に出てしまう問題があります」と湯川杜氏。
「1~2日発酵を延ばせば解決しますが、辛口になりすぎるので、ちょうど良い搾り日の見極めが難しい。他の蔵元も同じことを考えているので、最近のお酒は全体的に少し辛口傾向になっているのでは?」とのこと。
今回の訪問で
帰路につく途中、非常に新しい知見を得た良い訪問だったと思う。「十六代九郎右衛門」らしい蔵の在り方や主張を感じ、まさに今、勢いのある蔵元だと強く感じた。それで、実際に九郎右衛門を味わいたいと思い、名古屋に戻って東桜の飲食店で、五号酵母を使った「十六代九郎右衛門 金紋錦 生酛生酒」を飲んだ。
他蔵の速醸酒と比較したが、九郎右衛門は香りがほとんどないものの、程よい甘みと切れの良さで何杯でも飲めてしまう。生酛特有の少しの苦味がナチュラルで、食材との相性を豊かにしてくれる。
特に感銘を受けたのは、速醸酒は食事を進めるうちに甘さが強く感じられるが、九郎右衛門は最後まで同じ味わいで、しかも軽やかだ。これこそ湯川杜氏の言う「自然な乳酸菌の力」だと実感した。
【定番酒】























































